リーフレット 4-1


聴覚映像を中心にして

野村仁

「日本美術サウンドアーカイヴ──野村仁《音調、強度、時間を意識して、レコード(糸)を操作する》1973年」リーフレット、2018年、1-2頁。



大学彫刻科在籍6年(1968年)までに作品制作上の問題としていたのは以下の点でした。

・彫刻のモニュメンタルな永続性を第一義としなければ彫刻はどうなるのか?
・美術は可視光の範囲(400-700nm)を超えられないのか?

の2点で、それは現在も継続しています。

・彫刻のモニュメンタルな永続性を第一義としなければ彫刻はどうなるのか?については(1968-69年)《Tardiology》実施、突破口に達した。
・「美術のfinishは可視光の範囲を超えられないのか?」は、「聴こえるものは対象なのか?」となりそれら作品を聴覚映像と名付けた。

以下資料を参照しながら記述していく。

イマジネーションを刺激

視覚からイメージを膨らませる「視覚映像」のように、聴覚からもイメージを生み出すことが出来るのではないか?と、それを「聴覚映像」と呼び、以下の作品を制作。

1)電話をかけ録音する(1970年)
2)買い物中の会話を録音する(1972年)
3)《梵鐘》(1973年)
4)音調強度時間 レコード(糸) (1973年)
5)頭蓋骨の振動→耳(1974年)
6)自身が発声する(1974年)
7)カエル、せみ、羊、街の音等と自身の発声を一緒に録音する(1974-75年)
8)月を撮影し五線と合わせる→写真による楽譜的なビジュアル
9)《‘moon’ score》(1975年~)
10)《‘pleiades’ score》(1978年~)
11)《‘birds’ score》(1983年~)
12)《COWARA》(1987年~)銀河電磁波を音に
13)《Elliptic score: In Falling Awakening》(2003年~)
14)《‘Grus’ score》(2004年~)
15)《‘moon’ score: ISS Astronaut》(2008年~)
16)《‘moon’ score: ISS Commander》(2009年)

という風に変化進展してきた。

上記 1)–7)は《‘moon’ score》以前、視覚と共に聴覚に重心を置いた作品として実施。

1)70年の「電話をかけ録音する」について。
正式タイトルは《公衆電話を使ってその位置から磁石の指し示す北の方角に見える全てをそのまま075-761-4113へ報告する。その報告は075-761-4113の受話器を通して録音される。》。携帯電話のない時代、公衆電話は3分間の通話が可能で終了はチャイムで知らされていた。右京区花園の自宅から左京区の京近美まで約10kmの道々、ポラロイド写真を撮りながら公衆電話ボックスに入り景色の聴覚映像化を実行した。本作品は京都国立近代美術館で翌日(1970年7月7日)から開催の「現代美術の動向」展に出品された。当録音はレコード盤にカットし《HEARING》として聴き取り書き後に台本化。なお、レコード盤にカットしfinishとするのは上書き出来ない状態であるため。

2)は買物中の会話。レコード盤にカットし《HEARING》として聴き取り書き後に台本化。

3)は梵鐘の音をレコード盤にカットした作品である。

4)73年の音調強度時間 レコード(糸)は、今回の出品作である。音は3つ(高低 強弱 長短)の組合せによって様々に変化出来る。レコードの初期、形も筒型や円盤型があり、いずれも溝のような凹みに記録されたが、糸のような凸型線型ならどんなことが可能だろうか?と試みた。ピックアップに糸を接触させるのであるがその折リ、音の3要素を大いに意識して行うのである。

5)頭蓋骨の振動→耳(1974年)
タイトルは《Disc》としたが、頭蓋骨の振動音を表せないかとの試みである。指で頭をかくと頭骨を伝わりその音が耳に聞こえる。それを表したいと思い、頭に指を当てた写真をレコード盤に貼り溝は切ってないままピックアップを載せるとインサイドフォースの働きで頭蓋骨の振動のような音を聴くことができる。

6)自身が発声する(1974年)
7)カエル、せみ、羊、街の音等と自身の発声を一緒に録音する。(1974-75年)
6)、7)は自分自身一人発声したリ、カエル、せみ、羊、街の音などと共に発声した音である。レコード盤にカットし《HEARING》として聴き取り書き後に台本化。

12)《COWARA》(1987年~)銀河電磁波を音に、について。
当初の疑問点であった「美術は可視光の範囲(400-700nm)を超えられないのか?」の直接的な表れとなったのではないかと思われる作品である。可視光範囲を超える波長の電磁波を音に変換し展示空間を満たすものである。

以上、出展作品を中心に記しました。

8)~16)に関しては、制作を継続するうちに自身の関心のありようは視覚・聴覚で同時に感じていく作品に向ったように思います。
2017年夏、フランス洞窟壁画の現場に立って、その様な感じ方の大切さを再認識することができたのは貴重な体験でした。

2018年1月
野村仁