リーフレット 11-1


渡辺謙氏への手紙

柴田雅子

「日本美術サウンドアーカイヴ──柴田雅子《AFFECT-GREEN Performance》1976年」2021年。



渡辺謙様

この度は、ご親切なご挨拶をいただき、ありがとうございました。

写真のデータとなりますと、タイトル・日時などの他は、作品の概略を述べなければ、ご理解いただきにくいと存じますので、一応、どのようなものであったかを記します。

タイトル:AFFECT-GREEN performance
日時:1976年3月
場所:ときわ画廊

[概略]

A)ある地点から別の地点まで移動する際に目につくもの、感じることなどを、アトランダムに私が言葉で言いながら、周囲の音と共に収録する。(テープA)

A’)Aをムービー・カメラで後ろから一定の距離を保って撮影して行く(フィルムA’)(この時は私が住んでいた上目黒から、神田のときわ画廊までとしました──約50分)

アパート―徒歩―中目黒駅―電車―渋谷駅―電車―神田駅―徒歩―ときわ画廊

※ AとA’は事前に収録しておき、当日はB以下を行います。

B)テープAを流し、それを聞きながら即興的にイメージされる音を、訓練された声の持ち主に発声してもらい、同時録音する。(テープB──AとBの音が重なっている)(この時はクラシックの声楽家に頼みました。)

C)テープBを流し、それを聞きながらイメージされる音を即興で打楽器奏者に打ってもらい、それを同時録音する(テープC──AとBとCの音が重なっている。この時はジャズのドラマーにドラムをたたいてもらいました。)

テープABCをそれぞれ2本ずつのスピーカーから流せるようにし、かつA’のフィルムを画廊奥正面の壁に映写できるようにセッティングします。

D)ABCA’を、それぞれ約10分ずつずらせて順に流してゆき、それをテープDに録音する。(この時私は、それぞれのテープを流し始める際に、その2本のスピーカーの中央に立ち、作者という発信素と、その場の音との異と同を示唆してみたという程度です。)

 
 
affectgreendiagram
 
図にすると上のようになりますが、実際にはこの場合、決して図式化し得ない音のズレと重なり、そのふくらみの増減によるダイナミックで微妙な空間が流動的に形成されることを意図したものです。

音というかなり客観的に計測し得る時間と物質を併せ持った素材に、ある変容を重ねて加えてゆき、さらに素になる音を拾っていった際の映像という時間的視覚を重ねて、私流に言えば一種の絵画的時空間を形成し得ないか、との試みでした。

この場合の変容とは、私というひとりの人間を通して拾った音を、声楽家という声の訓練を経た別の人間を通して行うことであり、さらにその変容をもう一度、打楽器奏者という別の人間の感覚を通して増幅させ、かつ、それらを時間的にずらせて重ねてゆくことで、予測を越えた音の色やかたちが形成されてゆくのを感受し得るのではないか、と考えたのです。(人の声と打音は、私が音をイメージするとき、まず浮かんでくるものでした。)

少し長くなってしまいましたが、作品写真のご参考になれば幸いです。

’91年5月19日
柴田雅子